2026年 04月 03日
"Radium Girls" Kate Moore |
”Radium Girls”
と聞いて、マリ・キュリーに関わる本だとばかり早合点していた。
Girls、と複数になっていても、彼女の名前のあとに”夫人”とつけられるのが決まりでも、自分の頭の中でそう決めていた。
違う。
1920年代に時計の文字盤をラジウムを混入した染料でなぞる作業をした女性たち。
ニュージャージー州、イリノイ州、コネチカット州での工場でほんとうにあった事件である。
暗闇のなかで光るラジウムは、時計の文字盤に使われた。
環境を問わないところにいる兵士にもありがたがられた。
1898年にマリ・キュリー、ピエール・キュリー夫妻に発見されたばかりのラジウム。
ラジウムは若返りに効く魔法の薬として、それを希釈した水を飲んだひともいた。
経済低迷のなか、若い女性らには、魅力的な仕事であった。
学歴を問われず、正確に数をこなせば高給を与えられた。
工場などで体力を酷使する必要もなく、スタジオでともだちと談笑しながらデスクに座って細い筆で文字盤をなぞる作業はらくなわりには豊かな収入で、家族の経済的助けになった。
一応は18歳以上の女性、と広告していても、実際は13歳という若さの少女もいたらしい。
ひとりが雇用されれば、その姉妹が誘われることもあった。
細い筆先にラジウムを含む染料をつけ、それを唇にちょっとはさんで筆先を整えて数字をなぞることを繰り返す。
仕事開始時に一定のラジウムが配られて、貴重なその粉を無駄にしてはならない。
慎重に使うが足りなくなれば、足りている者が補った。
ラジウムは金持ちが若返りの薬として珍重するくらいなのだから、こんなにきらきら光ってきれいなのだから、と若い少女たちは、その夕方にデイトの約束があればドレスを着て仕事にやってくる。
それらをいたずらして化粧に使った少女もいた。
夕方には暗闇に彼女の姿はほんのりオーラをまとうように輝く効果があるのを知っているから。
仕事が終わって帰宅すると、暗い部屋で着替えるとき、ふわりと緑色に光る粉が舞う。
靴も、髪も、指先もほの光るのを、家族は、幼いきょうだいは、うっとりと見ていた。
歯が抜ける。
足腰が痛む。
顎が痛む。
歯医者での抜歯後、治癒しないどころか、さらにほかの歯がゆるむ。
流産。
死。
そんなことに気がついてくるけれど、当時はそれがラジウムのせいだとは解明されていなかった。
診断する医師にとっても、ラジウムがひとのからだに及ぼす影響は未知であったことも、雇用者側の庇護もあり、被害者らの声がまともに法に届くまでに辛抱も時間もかかった。
ひとのからだにとりこまれたラジウムは骨に蓄積され、骨肉腫、骨壊死をもたらす。
抜歯後に傷口がふさがらないうち、顎の骨の欠片が口からこぼれたという。
そのひとかけを患者から預かった医師が、レントゲン写真を収納する引き出しにいれておいたら、数日後には写真が白く曇ったのは、その骨の含むラジウムの恐ろしさを語っている。
そうして雇用主を相手取り裁判へ進む長い長い経過、少女たちの、その家族の葛藤、その後を追っている。
裁判を待たずに逝く命もあった。
命が終わる前に裁判が終わるかと怯えながらも、もはや証言台にのぼる彼女らの証言は彼女らだけでなく、そこで働いたひとすべての命と健康にかかわることなのだという使命を握っていたのだ。
裁判の結果は、被害者への医療費の負担や賠償金を約束するだけでなく、その後、労働者を守る法律を改正することにもつながった。
ひとの命も健康も金に代えられないが、せめてものはなむけだ。
ラジウム温泉は放射線物質を含み、免疫力を強化し、リュウマチなどに効くらしい。
その放射線物質は極めて微妙で、無害だが、刺激が強いので浸かりすぎというのもいけないそうだ。
さらに、
著者はイギリス人ということも異色といえば異色である。
この地に足を運んで遺族へのインタビューなど、入念なリサーチをもとに書き上げた、被害者とその遺族への追悼である。
この作品は映画化されてもいる。
秀作を読むと、映画化されたものを観るのを憚る。
by ymomen
| 2026-04-03 00:45
| 特別な本
|
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Comments(7)
邦訳版があったので図書館に予約しました。少しだけご縁のあった州でこう言うことがあったなんて、全く知りませんでした。日本にも薬害とか公害とか色々ありますが、その解決への道のりはとてつもなく長いという印象です。企業対個人(の集合体)ですから、一筋縄ではいかないのでしょうね。解決というのは語弊がありますが、その道筋を本書で辿ってみたいです。
1
アスベストもそうですよね。 建材としてかなり使われていたのに発癌性があると確認されてから禁止されて それが使われた建物は取り壊されたり除去作業がされたり。。。最近だと食品着色料の赤色がそうだし、過去には安全とか便利とかで使用されていたのがその後の科学的な調査で有害性が認められた時にはもう大勢の人達に被害があった後なんですよね。
なぜ現代ではこれだけ多くのに食物アレルギーやADHDが発生するようになったのかと考えると小さい頃から打つべきとされてきたワクチンや 食品添加物を考えてしまいます。
昔水銀を含む農薬が原因で水俣病が発生して禁止になったのに 違った種類とはいえ未だに水銀やワクチンや防腐剤として使われていると思うと、スーパーで買うパンが数週間常温で置いてあってもカビ一つ生えないのはすごく不自然で恐ろしく感じます。 某ファーストフードの食べ物は数年ほったらかされてもカビどころかそのまま見た目が変わらないらしいですよね。
生後18か月でステージ4の癌と診断されて2年間近くいろんな治療をした甥っ子は今15歳。サバイバーといえますが、それでもいくつもの癌治療がもたらした沢山の副作用のための治療で未だに病院通いが続いています。
なんだかネガティブなだけのコメントになってしまいました。ごめんなさい。
なぜ現代ではこれだけ多くのに食物アレルギーやADHDが発生するようになったのかと考えると小さい頃から打つべきとされてきたワクチンや 食品添加物を考えてしまいます。
昔水銀を含む農薬が原因で水俣病が発生して禁止になったのに 違った種類とはいえ未だに水銀やワクチンや防腐剤として使われていると思うと、スーパーで買うパンが数週間常温で置いてあってもカビ一つ生えないのはすごく不自然で恐ろしく感じます。 某ファーストフードの食べ物は数年ほったらかされてもカビどころかそのまま見た目が変わらないらしいですよね。
生後18か月でステージ4の癌と診断されて2年間近くいろんな治療をした甥っ子は今15歳。サバイバーといえますが、それでもいくつもの癌治療がもたらした沢山の副作用のための治療で未だに病院通いが続いています。
なんだかネガティブなだけのコメントになってしまいました。ごめんなさい。
> nanamin_3さん
邦訳されていますか。
1920年代というと、第一次と二次世界大戦の間のことです。
わたしも知りませんでした。
大資本が相手だと小市民の財布では握りつぶされる現実から、クラスアクションというシステムができたのですねえ。
ひとりの被害者の告発が、そのあとの被害を防ぎ改定することにつながるのですから、もうその時点で個人の戦いではないのですよね。
ほぼ100年前のこと、どうしてわたしも知らなかったのか不思議です。
邦訳されていますか。
1920年代というと、第一次と二次世界大戦の間のことです。
わたしも知りませんでした。
大資本が相手だと小市民の財布では握りつぶされる現実から、クラスアクションというシステムができたのですねえ。
ひとりの被害者の告発が、そのあとの被害を防ぎ改定することにつながるのですから、もうその時点で個人の戦いではないのですよね。
ほぼ100年前のこと、どうしてわたしも知らなかったのか不思議です。
> Ziggyusさん
甥御さんも親御さんもご苦労なさいますね。
どれほどおつらかったことでしょう。
治療の続行、お見舞い申し上げます。
わたしたちが日々摂取している”毒”は数えきれないのでしょう。
食品に含まれるもの、大気に含まれるもの。。。
すべてを避けられないにしても自分でコントロールできるものは避けたいです。
ワクチンについても、家庭内での食事も、おおかたは母親の判断ですから、責任大ですよね。でもわたしはワクチンについては、あのころそれほどに深く考えないでいました。
こどもたちが自分で判断したのは、抗COVIDだけでした。
あきらだけは折れずに受けませんでした。
マイクロプラスチックについてこのごろは多く語られていますね。
甥御さんも親御さんもご苦労なさいますね。
どれほどおつらかったことでしょう。
治療の続行、お見舞い申し上げます。
わたしたちが日々摂取している”毒”は数えきれないのでしょう。
食品に含まれるもの、大気に含まれるもの。。。
すべてを避けられないにしても自分でコントロールできるものは避けたいです。
ワクチンについても、家庭内での食事も、おおかたは母親の判断ですから、責任大ですよね。でもわたしはワクチンについては、あのころそれほどに深く考えないでいました。
こどもたちが自分で判断したのは、抗COVIDだけでした。
あきらだけは折れずに受けませんでした。
マイクロプラスチックについてこのごろは多く語られていますね。
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
見落としていました。気が付かなければそれでも結構です。
そうでした。昔の腕時計や目覚ましの秒針の先と時刻版に。
3.11の時、世田谷のある家でこのラジュウーム騒ぎがあったようでした。
昔使ったラジュウームのビンが発見され、放射線を出していたようでした。
そうでした。昔の腕時計や目覚ましの秒針の先と時刻版に。
3.11の時、世田谷のある家でこのラジュウーム騒ぎがあったようでした。
昔使ったラジュウームのビンが発見され、放射線を出していたようでした。
> tanatali3さん
及川さんのコメントを気づかないってことはありません 笑
恥ずかしながら、3.11の意味がわからず、検索しました。
東日本大震災のことなのですね。
日本人でありながら全く恥ずかしい。
そんなことがあったのでしたか。
ひとは光るものに惹かれるのでしょうか。
及川さんのコメントを気づかないってことはありません 笑
恥ずかしながら、3.11の意味がわからず、検索しました。
東日本大震災のことなのですね。
日本人でありながら全く恥ずかしい。
そんなことがあったのでしたか。
ひとは光るものに惹かれるのでしょうか。


