2026年 01月 08日
夜店の指輪 |
アップルウオッチの本体の裏側のグラスを破損し、素人仕事で治したのは何か月前だったか。
そのまま支障はなく作動している。
これに頼る理由は心拍数をモニターするのがいちばんの目的で、それもいまのところ安定している。
父母の形見の腕時計をしたくなった。
父母が恋しい。
ひとつは電池なしで作動するもの。
それ以外は、電池を交換してもらった。
ステンレスのバンドが緩くて三年前にひとつ金具を外してもらったのが、さらに緩いのでもうひとつ外してもらいたがったが、そうとうくたびれているしろもので、時計屋の職人は、数十分いじったすえ、数時間預かっていいですか、と言う。
それはかまわないけれど、いっそバンドを交換するのもいいかと、どんなものがあるのか見せてもらった。
すでにあるものにそっくりというものはなくて、光沢が過ぎるとか、ごつすぎるというものばかりなので、皮を選んだ。
皮のバンドも、パッドを縫い込んだ厚みのあるものもある。
薄く、なるべく目立たないのを選んだ。
皮のバンドのほうが、手首の大きさの変化に順応する。
いつかみあかあきらが欲しいという日が来るかもしれない。
そうなったら、父はどんなに喜ぶだろうか。
預けてでももとのくたびれたバンドで小さくしてほしかった思いもぬぐえないが、それも持ち帰ったから、どうしても納得いかなければまたもとに戻してもらおう。
ここは古くからあるダウンタウンの時計屋で、いまどき時計屋なんてやっていけるのかと思う。
兄妹で商っている。
わたしがそこにいた間、ちらほらとひとが訪れて、それぞれ用のある客ばかりで”ひやかし”の類はなかったから、けっこう繁盛しているのかもしれない。
若い母が幼い男の子を連れて入ってきた。
鳩時計が時を知らせるとき、カウンターの端をつかんでうっすら唇を開けたまま、まん丸な目で瞬きしないで鳥の出入りを見つめていたのがこよなく愛らしくて、そういう子を見ていたわたしも瞬きをしなかったと思う。
電池交換一つにつき15ドル。
前回は10ドルではなかったか。
もっと住まいに近いハードウエアストアで電池交換してもらえば、もっと安い。
だがそのとき、母のSEIKOが新しい電池で作動しなかった。
これはやはり時計屋に任せなければ、とそれからは時計屋へ行く。
時計の内部の調節が必要だった。
作動しなくなったローレックスもここにかつて持ち込んだ。
部品交換などを含めて620ドルという見積もりで、それじゃあお願いします、と頼めないでいる。
その見積もりの記録は顧客記録に残っていて、それはもう3年前の数字だけどいま頼んでも同じだと請け合うのに、やっぱいまだ踏み切れない。
時計を任せている間、ショーケースを眺めていた。
透き通るピンクの大きなクオーツの指輪から目が離れない。
ケースからだしてもらったら、薬指にぴったりで、おもちゃみたいにばかばかしいほど大きな石は、わたしの男並みに大きい手に似合う。
こどものころ、夜店で父にねだった指輪みたいだ。
冗談みたいなしろもので、こんなものを欲しがる自分がおかしいけれど、こういうものをふだん欲しがらない自分は、父母の時計を蘇生しているところにいながら、故郷の盆地の町の夏の夜店にも同時に帰ってきたような気がしてきた。
はめていた指輪をいったんお返ししたが、若い見習の女性が丹念にそれを磨き始めた。
買うと決めたんじゃないのよ、と言ってみながら、父母がそこに立って笑っているような錯覚もあった。
清算してもらいながら、この指輪、交渉のゆとりはありますか、と訊いてみた。
値札のままなら諦めようと思っていた。
あっさり値引きしてくれて、もう買わないわけにいかなかった。
by ymomen
| 2026-01-08 06:58
| 特別なもの
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Comments(2)
momenさん、こんにちは!
ご両親の身に着けていた時計を身につけるといつでも目に入るからそのたびにご両親の事を想うのでしょうね。
成人祝いに両親から贈ってもらった時計は それから何十年も仕事やお出かけ時にはいつも身に着けていましたが携帯を持つようになってからは身に着ける事はなくなりましたが、今でも毎日目の届くところに置いてあります。 電池が切れて長いのでちゃんと取り換えて貰わないといけません。 いずれは娘に譲るつもりでいます。
流石天下のロレックス、メンテもそんなにするんですねえ。
ピンクオーツのリング、お似合いです。ちょうどmomenさんのネイルの色とマッチしてますね。
ご両親の身に着けていた時計を身につけるといつでも目に入るからそのたびにご両親の事を想うのでしょうね。
成人祝いに両親から贈ってもらった時計は それから何十年も仕事やお出かけ時にはいつも身に着けていましたが携帯を持つようになってからは身に着ける事はなくなりましたが、今でも毎日目の届くところに置いてあります。 電池が切れて長いのでちゃんと取り換えて貰わないといけません。 いずれは娘に譲るつもりでいます。
流石天下のロレックス、メンテもそんなにするんですねえ。
ピンクオーツのリング、お似合いです。ちょうどmomenさんのネイルの色とマッチしてますね。
1
> Ziggyusさん
おはようございます。
父や母の腕時計をつけていると、手首の血流でふたりと常に交信できているような気がします。
アップルウオッチが普及して、そういう類が主流になっていますね。
時刻変更線を超えても、ひとが時刻の調節をしなくて正確なのは便利だけど、味気ないようでもあります。
こどもたちがこういうものをありがたがってくれるのか、わかりません。
夫とそろいのロレックスは、夫のも作動しなくなって長いです。
これはそれぞれみあとあきらが欲しがるでしょう。
いまとなっては、わたしにはそんなものよりもガラスにひびの入った父母の腕時計のほうがいとおしいです。
指輪、大きいので邪魔だし、なくても全く困らないものなんだけど、持ってるだけでうれしいなんて、やっぱりおもちゃの類ですね。
おはようございます。
父や母の腕時計をつけていると、手首の血流でふたりと常に交信できているような気がします。
アップルウオッチが普及して、そういう類が主流になっていますね。
時刻変更線を超えても、ひとが時刻の調節をしなくて正確なのは便利だけど、味気ないようでもあります。
こどもたちがこういうものをありがたがってくれるのか、わかりません。
夫とそろいのロレックスは、夫のも作動しなくなって長いです。
これはそれぞれみあとあきらが欲しがるでしょう。
いまとなっては、わたしにはそんなものよりもガラスにひびの入った父母の腕時計のほうがいとおしいです。
指輪、大きいので邪魔だし、なくても全く困らないものなんだけど、持ってるだけでうれしいなんて、やっぱりおもちゃの類ですね。






