2025年 12月 11日
"Mad Madame" Juliette Has a Gun |
Juliette Has a Gun
Mad Madame
2012
Juliette Has a Gun、というブランドはなかなかおもしろい薫りを出している。
Mad Madameもそのうちのひとつで、寒い季節に似合う。
mad madameを、気ちがいマダム、あるいは怒るマダム、と訳すか。
御伽噺に出てきそうな赤い瓶だが、中身は、そう甘くない。
ロシア訛の低い声で表情を変えずに話すマフィアの女親分、白雪姫の継母みたいなデイズニー映画の怖い女年増に似合う。
これをつけていると、誰がどんな文句をつけようとも、じっと睨めば視線を逸らしてすごすごと逃げていきそうな貫禄のある女になった気になるくらい、凄みのある薫りなのだ。
凄み、という存在感のある薫りになる決め手はベースノートに含まれる海狸香(かいりこう・castoreum)だろう。
ビーバーの肛門近くにある一対の香嚢からとれるこの不思議な薫り。
ひとを魅きつける薫りは必ずしも美しいものだけからできているのではない。
ときには”悪臭”と分類されるものが僅かに混じって、より複雑な薫りとなりえる。
トップノート
薔薇
黒スグリ
アンバー
フリージア
ミドル
パチュウリ
苔
月下香
ジャスミン
牡丹
ベース
海狸香
白麝香
トル―バルサム
バニラ
エスキモーみたいにもこもこに着こんで散歩する。
膝下ダウンジャケット、毛糸の帽子、手袋、特大スカーフ。
スカーフに染み込んだMad Madameの薫りに包まれて、モスクワを彷徨うマフィアの女親分のつもりで歩く。
大きなサングラス越しに冷たい向かい風が目をさす。
涙がマスカラに滲んで帰ってきたらなおさら凄みのある顔になっていた。
女優で言えばこれが似合うのは誰かと考えても思いつかないが、別府の伯母なら似合う。
父の姉にあたるひとで、若いときに脊椎カリエスを病んで片手が不自由になっていたが、結婚してから事業を成功させて、”おとうちゃんあってのわたしや”と、常に連れ合いの伯父を立ててはいたが、誰もが伯母の偉力を知っていた。
親族内ではゴッドマザー的存在で、女傑という形容がふさわしいひとだった。
美しいひとで、常に身なりを整えていた。
百貨店に行かずとも、外商のひとびとがいくつもの靴の箱や洋服を伯母宅に持ち込んでは伯母が仕事の合間に物色していた。
世の中には白、黒、灰があって、白いこともしたが、生きるためには黒いことも灰色のこともして誰に謝るでもなかった。
敵も多かったが、慕う人も多かった。
若かったころには伯母の魅力がいまの半分もわからなかったが、じわじわとわかってきた。
厳しいひとだったが、わたしを可愛がってくれた。
仕事を引退した伯母は未亡人になっていて、現役時代は仕事ばかりで自分の世代のともだちなどおらず、また伯母ほどの人物と渡り合えるようなひともいなかったろう。
お手伝いはいても寂しがって、両親を招いては何週間も泊まらせた。
父を”のぶちゃん”、母を”かずちゃん”、父は伯母を”千代姉ちゃん”と呼んでいた。
ここに棲んで永くなり、親しい間柄でニックネームで呼びあう習慣はここにもあるけれど、日本で親しんだような親族間での呼び名ほど愛情のこもった言い方はないような気がする。
祖母がもう危ない、という数か月のあいだ、別府から竹田を仕事を終えてから何度往復したことか。
半世紀ほども前のことで、いまほど道が整備されていなかった。
疲労のせいで、ある夜事故に遭った。
恰幅のいいひとだったから腹周りの脂肪が内臓を衝撃から守って、青痣ですんだと聞いた。
ひとからこわがれた伯母は、ずっと祖父母のこと、”とっちゃん、かあちゃん”とこどもみたいに呼んでいた。
みあを出産して間もないころの写真を送ったら、まず、わたしが化粧してないこと、身なりに気を使っていないことを注意した。
それからわたしは一日家にいるときも化粧するようになった。
伯母のようになりたいか、というと、わたしにはそんな器量もないし、彼女の人生はらくではなかったろう。
でもMad Madameの似合うひとの強さに憧れる。
つかのま、Mad Madameごっこする程度のことである。
海狸香というどちらかというと攻撃的な薫りにとりつかれても、薔薇などの花々や黒スグリや苔などと相まってこそ、Mad Madameがある。
by ymomen
| 2025-12-11 01:53
| 香り
|
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Comments(2)
momenさん、こんにちは!
Juliette Has a Gunというなの香水ブランドは初めて耳にしました。ブランドの名前もさるものながら、香水の名づけも変わっていますね。 容器自体もあまり香水のボトルという雰囲気ではないし。。。
海狸香というのも初耳。 ビーバーって感じで海狸って書くのですね。 ほお~。
叔母様のお話、興味深く拝読しました。私自身はMad Madameの香りが似合う人物とは程遠いなあと思います。未だに化粧っ気なしですしね。
Juliette Has a Gunというなの香水ブランドは初めて耳にしました。ブランドの名前もさるものながら、香水の名づけも変わっていますね。 容器自体もあまり香水のボトルという雰囲気ではないし。。。
海狸香というのも初耳。 ビーバーって感じで海狸って書くのですね。 ほお~。
叔母様のお話、興味深く拝読しました。私自身はMad Madameの香りが似合う人物とは程遠いなあと思います。未だに化粧っ気なしですしね。
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> Ziggyusさん
おはようございます。
このブランド、ちょっと変わっているのですよ。
ボトルの形は全部同じですが、色やデザインで変えています。
うみたぬき、なんですね 笑
伯母が他界してしばらくです。
自分が歳をとるにつけ、彼女の偉大さがわかります。
ああいうひとは、ちょっとほかにいないと思います。
おはようございます。
このブランド、ちょっと変わっているのですよ。
ボトルの形は全部同じですが、色やデザインで変えています。
うみたぬき、なんですね 笑
伯母が他界してしばらくです。
自分が歳をとるにつけ、彼女の偉大さがわかります。
ああいうひとは、ちょっとほかにいないと思います。


