”Chimp Empire” ２％の違い

チンパンジーとヒトは、DNAの98％を共有するという。

たった２％違う。

夫はわたしが果物を剝かないと食べない。

バナナや蜜柑を勧めれば自分で剥いて食べることもある。

猿にもそうやって食べる知恵がある。

林檎の皮を剥いたり、苺のヘタを切り去って食べやすい大きさに切れば、食べる。

猿レベルだ。

ものが壊れるとまず叩いてみるのも猿レベルであるよ。

あなたって、チンパンジーね。

この番組ではかなりの至近距離で彼らを観察できる。

望遠レンズを使っているのだろうが、それにしても、どういうからくりなのであろうか。

それぞれに名前をつけて、みなしごだの、この子の父親は誰だの、いくつのときに右手をどういういきさつで失っただのと事情を解説する。

チンパンジーにインタビューできるわけもないのだから、番組ができる以前の調査は何年もかかったのだろう。

孤立している若いチンパンジーが、α（アルファ）的存在のチンパンジーに近づいて、毛づくろいをして取り入るも、冷たく拒絶される。

やっと手が離れそうな乳飲み子を抱える母が、雄の求愛に応える間に子は不安とジェラシーではらはらしている。

頂点になれない雄が大雨のなか威嚇して見せる。

それを眺めて己の位置をどう守るかと考えるα。

人間社会の根底を見せつけられているようである。

αであるジャクソンが敵のリンチにあって負傷して、そんな姿を仲間に見せられなくて、独り森に入っていく。

傷が癒えないままで、そのうち仲間の一頭のピーターソンが探しあてて、臨終を共にした。

手を握り合って、ひとりじゃないぞ、と慰めた。

若い一頭の雌、ジョヤは群れを離れていった。

ほかの群れに属することになるだろう。

日本を離れた若かった自分もそうだったか。

チンパンジーは泣かないけれど、感情はある。

わたしもこのごろは泣かなくなった。

大学時代のともだちのメアリーのアイドルだった、Jane Goodallが逝った。

チンパンジーと、チンパンジーの傍に住み、彼らの観察と研究に生涯を捧げた。

メアリーは彼女の崇拝するひとと同じようにポニーテールで、心理学専攻で、いずれは教授になる、と決めていた。

大学卒業後、ヨーロッパを放浪して、旅行ビザが切れてもハンガリーに長逗留したあと、当時デンヴァーに住んでいたわたしに会いに来た。

ダウンタウンの高層アパートメントに住んでいたわたしに、ちょっと失望したように感じたのは考えすぎか。

髪を短く切って、ハンガリーで知り合ったひとと長く同棲して、仲がこじれて帰ってきたらしかった。

日にオレンジ一個とパン一本という暮らしだったけど楽しかったと言っていた。

それからもう一度話したとき、ハンガリーの恋人がニューヨークに来ていると言っていて、彼はメアリーのところに居つきそうな予感がした。

それから互いに連絡しなくなったけれど、つい先日彼女をYoutubeで見つけた。

生まれ育ったニューヨークで、旧姓のままで、ハンガリーに関する社会問題について講演していた。

最後に会ったときほど短くもなかったけれどポニーテールにするほどの髪の長さでもなかった。

ジェーン・グッダールの訃報を聞いて、メアリーのことを思った。

くたくたの首回りが綻んだ白いシャツにリーヴァイスにドクター・マーテインのコンバットシューズがわたしたちのユニフォームだった。

白人のブロンドの女の子がポニーテールにしていて、そんな恰好をしているのを空港などで見かけると、メアリーじゃないかと目で追ってしまう。

バスルームで髪をひっつめにくくるとき、必ず唇をすぼめて斜めに鏡を見ていたのは、いまどきの子がセルフィ―に映るポーズそっくりであった。

髪用のゴムを買うのも節約して、ブロッコリを束ねていたゴムで髪を束ねていた。

あのころ履いていたドクター・マーテインをとうの前に処分してしまって、数年前にセールで再び買ったけど、まっさらの固くてぴかぴかのブーツはよそよそしくて、あの頃に履いていたブーツを捨てたのを後悔した。