2025年 01月 21日
卵 |
”No 24”というノルウエイ映画を観た。
第二次世界大戦中、ノルウエイの一兵士がナチスから母国を守ろうとする実話をもとにした作品であった。
現代に生き延びて、高校生の前で講演しながら回想するかたちで語られる。
父に似たそのひとは、ノルウエイの血を受けた義父の堅気をも思わせた。
かつて隣人であったひとの末裔の少女が聴衆のなかにいて、真実を問う発言をして老人の魂を揺すぶる。
その隣人は彼をナチスに売り渡し、暗殺された。
ナチスに加担する兵士を見張っていたアパートメントで振舞われた茹で卵を食べ損ねたが、同志の住人が彼を外まで追いかけてたったひとつの茹で卵をあなたのぶん、と言って手渡した。
映画の終わり近くで、ものに不自由しなくなった現代のテーブルでも、残した茹で卵をだいじそうにそっとナフキンに包んで上着のポケットに入れていた。
卵はつねに命のシンボルだ。
ひとはいつの世も、存命することを目的にしている。
貧しかった時代、卵という蛋白源をひとびとはいまにもまして珍重していた。
先日訊いたポドキャストで、北朝鮮から逃げてきた女性は、絶えず飢えていて、まともな食事を知らなかった。
いつかお腹いっぱい食べることができるなら、卵を食べたいと思っていたそうだ。
実際卵を食べられるようになったら、5つも食べたらもうそれ以上は食べられなくてがっかりしたと言った。
武田百合子氏のロシア旅行記では、兼高老人が朝食に出た茹で卵を残したひとのぶんをもったいないと回収して、その日のおやつに常備していた。
武田氏も、卵さえあれば栄養は賄える、という兼高老人にならって、茹で卵をハンドバッグにしまう。
物価高はここにもあり、食品のなにもかもの値段が上がった。
卵、牛乳、パン、野菜など、誰もが日常口にするものにも影響している。
鶏のインフルエンザが流行っているから、卵が不足しているという。
昔の御伽噺にも、貧しい家族が病気の誰かに食べさせてやりたいとたったひとつ卵を買うというような話があった。
それほどに卵の滋養は信仰されてきた。
これひとつに命が宿っているのだもの。
茹で卵の黄身はとろけるくらい
炒り卵はぼそぼそになるまえの、光沢が残るくらいにトロトロ
オムレツは半月の中心が半熟なのが好きだ。
層になる卵焼きも半熟のうちに巻いていくけれど、巻き終わったころには中まで火が通っている。
義姉は動物性蛋白質のバクテリアを怖れて、肉も魚も肉質がぱさぱさになるまで火を通すし、茹で卵は黄身がうっすら緑色に変色して粉っぽくなるほどまでに加熱するのを好む。
わたしは、肉はレアに近いほうが、魚は刺身が好きで、卵は先に書いたようなのを好む。
まだ寒い春、ほの青く小さな野鳥の卵を見つけることがある。
ときにそれは地上に落ちていて、そんなに小さな卵でも鶏の卵と同じに黄身も白身もある。
それらがやがて鳥になる。
母が作ってくれた甘い卵焼きが好きだった。
だしが入らず、塩の代わりに醤油、砂糖は温砂糖だったから黒ずんだ卵焼きだったが、菓子のように旨かった。
登校前、食欲がなくても、同じものを炒り卵にしてくれたのを白いご飯にのせると食べられた。
生卵をご飯にかけるとぐずぐずしたゼリー状の白い部分がちょっと苦手だった。
親元を離れて、色白のだし巻き卵を食べて母の卵焼きとは別のものだと思った。
上品な姿に比べて、母の卵焼きはどうも田舎じみているけれど、そういう卵焼きがわたしは好きだ。
卵というものに、生きている者のすべてが大人になっても母性に憧れ、求め、癒されているのではないかと思う。
"くらし部門”
by ymomen
| 2025-01-21 01:09
| 食
|
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Comments(2)
momenさん、こんにちは!
今日のmomenさんの記事を読んで ふと昔見た戦争映画、Inglourious Basterdsを思い出しました。
いつでも手に入るとと思っていた卵が今は入手困難とまではいかなくとも お店では品薄状態になっていますね。 そしてお値段もかなり上がっていますし。
昨日 Costcoに行った娘が卵がなかったと言っていました。
今日、いつも卵を買っているお店に行ってみると5ダースしか残っていなくて、さっと3ダースほど買っておこうかと思ったものの、やっぱり変な罪悪感が横切って2ダースを買い求めました。 もう一か所の大きなスーパーでは売ってはいたものの、18個入りの卵が$11もしました。
卵といえば、子供の頃、養鶏場を営んでいた親戚の家に行った時に、おばちゃんが、その朝に産み落とされた卵を取りに行って、炊き立てのご飯に乗せて卵かけご飯してくれました。 その美味しさが今でも忘れられません。 私達の食べる卵は無精卵で 有精卵だけがひよこになると知ったのもその時でした。
私は卵焼きにお砂糖を入れる。。。というのがあるのは大人になってからで 初めて甘い卵焼きを食べた時、驚きました。
今日のmomenさんの記事を読んで ふと昔見た戦争映画、Inglourious Basterdsを思い出しました。
いつでも手に入るとと思っていた卵が今は入手困難とまではいかなくとも お店では品薄状態になっていますね。 そしてお値段もかなり上がっていますし。
昨日 Costcoに行った娘が卵がなかったと言っていました。
今日、いつも卵を買っているお店に行ってみると5ダースしか残っていなくて、さっと3ダースほど買っておこうかと思ったものの、やっぱり変な罪悪感が横切って2ダースを買い求めました。 もう一か所の大きなスーパーでは売ってはいたものの、18個入りの卵が$11もしました。
卵といえば、子供の頃、養鶏場を営んでいた親戚の家に行った時に、おばちゃんが、その朝に産み落とされた卵を取りに行って、炊き立てのご飯に乗せて卵かけご飯してくれました。 その美味しさが今でも忘れられません。 私達の食べる卵は無精卵で 有精卵だけがひよこになると知ったのもその時でした。
私は卵焼きにお砂糖を入れる。。。というのがあるのは大人になってからで 初めて甘い卵焼きを食べた時、驚きました。
1
ziggyさん
おはようございます。
Inglourious Basterds、観ていません。
タランテイーノ?
観ていない映画を提案していだくのが嬉しいです。
いつ買い物にでても何もかも揃っているという贅沢に慣れて、こういうものが品切れしていると慌てます。
これほどに値段が上がっても、みんな買うのですよね。
新鮮な卵はごちそうですよね。
そのために鶏を飼いたいと思っていましたが、宅地によっては決まりごともあるし、そう簡単なことでもないらしいです。
母の実家は養鶏を営んでいました。
蛇がゆっくりと卵を呑みこんでからだのなかに入っていく姿が忘れられません。
母のもとでの生活のすべてが自分の常識になっていて、そこをいったん離れるとそうではないことにいちいちびっくりしたものでした。
おはようございます。
Inglourious Basterds、観ていません。
タランテイーノ?
観ていない映画を提案していだくのが嬉しいです。
いつ買い物にでても何もかも揃っているという贅沢に慣れて、こういうものが品切れしていると慌てます。
これほどに値段が上がっても、みんな買うのですよね。
新鮮な卵はごちそうですよね。
そのために鶏を飼いたいと思っていましたが、宅地によっては決まりごともあるし、そう簡単なことでもないらしいです。
母の実家は養鶏を営んでいました。
蛇がゆっくりと卵を呑みこんでからだのなかに入っていく姿が忘れられません。
母のもとでの生活のすべてが自分の常識になっていて、そこをいったん離れるとそうではないことにいちいちびっくりしたものでした。


