2024年 10月 14日
旅 |
滅多に旅行しない。
今回の旅行の日も決まってから、あっという間に迫って、またもや、行きたくないと思うのだけど、今回ばかりはそんなことを言ってはいけない。
なぜなら、昨年逝ったブラッドを弔う旅だから。
ブラッドに捧げる旅だ。
陸軍士官学校の同期生が集まる。
卒業20周年。
卒業生のうち25人が戦死などの理由ですでに世を去った。
ブラッドを含む彼らを弔う意味もある。
ブライアン、義母、義弟、義妹らと現地で合流する。
旅を嫌がるようになったのはいつからか。
ずっとこうではなかった。
日常英語がよくわからなかったころ、夫が決めるままについていった旅行は楽しかった。
言葉も含めて、いろんな面倒なことがわかるようになってから、どんどん旅行が煩わしくなったのではないか。
だから、これからの旅行はできるものなら、夫が決めるのにただ従うことにしたい。
交通費、宿泊費、交通事情などを聞き齧ると、とたんに心配ばかりして楽しくないから、夫が手配したことにただ乗っかると今回は決めた。
わたしが口出しし始めると、夫はわたしが彼の決断を疑っているように感じるらしいから、あなたが決めたことなら、と信用しきっていればいいのだ。
なにかうまくいかなければ、そのときに対処すればいいのだ。
どんな完璧なプランにも事故はつきものなのだから。
"犬が星見た” 武田百合子著
夫の武田泰淳氏、友人の竹内好氏と昭和44年にロシア旅行をした日記を読み返した。
百合子氏にとっては初めての海外旅行だが、なんの気負いもないのがうらやましい。
ロシアに到着する以前の船中からおもしろいので、憎いほどである。
大正生まれの彼女は、わたしたちの誰よりも先にいる。
船中で、滞在先で、酒を買ってきてほしいとねだる武田氏のために、バーや酒屋を捜しにひとりで出ていく。
知らない街を2時間も酒屋を求めてさまよって、通りがかりのひとに身振り手振りで酒屋のありかを訊いて歩く。
片言のロシア語を並べて通じないときには、目を据えてグラスを煽って、ふらふらになった酔っぱらいを演じてみせたりして、ついに酒を買う。
あるいは、朝食まえに散歩していると、事故を聴く。
目撃しなかったけれど、事故の音を聴いた。
当事者の女性は泣きわめいて、百合子氏に証人になって欲しいと訴えているらしいが、自分はどっかーんという音を聴いて振り向いただけで残念ながら見ていないと言うことを、後ろ向きになって歩いては”どっかーん”と言っては、はっ、とびっくりして振り向く、というのを繰り返して説得するうちに、百合子氏のことをなるほどこのひとはロシア人ではないと納得する、というエピソードもある。
わたしはこんなふうにこれほどに無防備にアメリカ人のなかに入っていったか。
こんな旅をしたことがあるか。
彼女の他の日記も読んだが、いる場所がどこになろうとも、彼女はよそゆきにならない。
自分もそれでいいのだ。
武田氏にとっては、これが最後の旅になったそうだ。
これを読むと、ロシアへの憧れが募る。
昭和44年は55年前。
百合子氏の観たロシアとは違うだろうし、世界情勢も大きく違う。
でもやっぱり行ってみたい。
銭高老人、武田夫妻の観たロシアを観てみたい。
by ymomen
| 2024-10-14 02:42
| アメリカの季節
|
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Comments(4)
百合子さんは徹底的に泰淳につくすのですね。
それが彼女の生甲斐のように。
でもそれは隷従とはまったくちがって、彼女の美しさを際立たせる。
本書読み直したくなりました。
それが彼女の生甲斐のように。
でもそれは隷従とはまったくちがって、彼女の美しさを際立たせる。
本書読み直したくなりました。
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若い頃、一人で旅をするときには一度だけ読む用と何度も読む用に一冊ずつ本を持って行きました。一度用は東野圭吾などで、何度も用は『犬が星見た』か『富士日記 中』でした。『犬が星見た』はインドで入院したときもずっと読んでいたので思い出深い本です。どこから読んでもいつ読んでも飽きませんでした。
saheijiさん
百合子さん、付き添い看護婦のようでもあって、わがまま言われるのに、どんなわがままも聞いてあげてますね。
それでいて同等で、文句もいじわるも言わないで、すがすがしいです。
何度か年を隔てて読みたい本ってあります。
百合子さん、付き添い看護婦のようでもあって、わがまま言われるのに、どんなわがままも聞いてあげてますね。
それでいて同等で、文句もいじわるも言わないで、すがすがしいです。
何度か年を隔てて読みたい本ってあります。
namakaolchiniさん
一人旅は帰国以外はしたことがありません。
やってみたいなあ。
インドで入院ってどうなさったのですか。
それを書かれた記事があるなら教えてください。
そんなときに読んだ本なら、いっそう忘れられないものでしょう。
富士日記はわたしも持っていますが、どうして”中巻”をご贔屓なんでしょうか。富士日記の中巻を読み直して、その謎を解かなくちゃ。
どの巻だったかに、ボート乗りをしていて、水しぶきをかけられたんだかで百合子さんが怒って、そのひとを怒鳴るところがありましたね。
先日そちらで勤務先でちょっとそういうことがあったという投稿を拝読して、すぐその箇所を思い出しましたよ。
わたしも怒鳴ってみたいことがあったころでした。
一人旅は帰国以外はしたことがありません。
やってみたいなあ。
インドで入院ってどうなさったのですか。
それを書かれた記事があるなら教えてください。
そんなときに読んだ本なら、いっそう忘れられないものでしょう。
富士日記はわたしも持っていますが、どうして”中巻”をご贔屓なんでしょうか。富士日記の中巻を読み直して、その謎を解かなくちゃ。
どの巻だったかに、ボート乗りをしていて、水しぶきをかけられたんだかで百合子さんが怒って、そのひとを怒鳴るところがありましたね。
先日そちらで勤務先でちょっとそういうことがあったという投稿を拝読して、すぐその箇所を思い出しましたよ。
わたしも怒鳴ってみたいことがあったころでした。


