2022年 12月 07日
アンドリュウとあきら |
あきらが中学生のとき所用で学校に寄ったら、知らない先生に、アンドリュウのお母さんですか、と訊かれた。
コロラド州の中都市のここでは、アジア人が多くない。
あきらの学年では、もうひとりアンドリュウだけだった。
アンドリュウの両親は中国人。成績最優秀。高校時代に受けたなんとかいう全国共通テストでは満点で、地方紙にはそのことが彼の顔写真入りで掲載されて、いまスタンフォード大学の2年生。
高校卒業前、あきらが州立大学でいいやというとき、すでにイエールから入学を許可されていて送られてきたロゴ入りのシャツを着て、スタンフォードからの返事を待っていた。
幼稚園からほとんど一緒で、そのうち近所に引っ越してきたから、ますます親しかった。
ほかのともだちが帰っても、家が近いから、深夜までうちにいることも多かった。
きょうはいちごのショートケーキがあるよ、と言うと、あきらが食べないときでも、食べたいと言ってくれるのが嬉しかった。
秀でて賢いのは誰もが認めていて、そのことを鼻にかけることもおごることもない、穏やかで優しい子だ。
彼の兄さんもまた秀才で、イエール大学、そしてスタンフォードの大学院に進んだ。
彼らの母親は、アンドリュウはいつも自分を長兄と比較して劣等感を抱いて頑張ったという。
みあは早くから、勉強はそれなりに努力しないと身につかないとわかっていて、人一倍努力した。
理解できないことがあると悔しがって、泣きながら勉強した。
高校でSpeech and Debatesに入部し、毎週末どこかの高校で弁論会があるのに、弁論のテーマに関する検索準備を怠らなかった。苦手な科目があると放課後先生についてわかるまで補習していた。
あきらが学齢になって、ほとんど家で勉強しない。
宿題はというと、学校ですませたという。
テストの点数は悪くないのに成績がCというのがわからないから、先生に問い合わせたら宿題を提出していないとか。
あきらに問い詰めると、いつ提出すればわからなかったとか、提出してもあとで名前の書かれていないのがあきらの筆跡だと先生が見つけたとか。
あきらもまた、みあと常に比べられていたのを意識していたという。
わたしは、比べてはいけないと意識していたから、それを隠せなかったのかもしれない。
学校では、みあが姉さんなのか、それじゃあ弟のあきらは、という先生の目が気になったらしい。
それに反抗して、わざと努力しなかったのか。
アンドリュウとあきらは、アジア人ふたり、どちらもほかの子より小さかったから見間違えられた。
成長するにしたがって、アジア人を見慣れないひとにとっても見分けられるようになり、ほかの性質の違いも顕著になる。
アンドリュウは学校一の秀才で、だいたいほかのアジア人の生徒もみな成績がいい。
Aばかりであたりまえ。Bがひとつあるのもいけない。
あきらの成績は、AとBが交互にあって、Cがひとつ、という感じだった。
小学校のころ、近所の年下の女の子が帰りのバスのなかであきらの成績表を見て、そんなのでよくお母さんが怒らないね、と言った。いいことを言ってくれたと、後日プールでその子のお母さんに会ってお礼を言ったら赤面しておられた。
ちょっと不憫になって、まわりからアンドリュウと比べられて困るかとあきらに訊いたら、だいじょうぶ、アンドリュウは頭脳で、ぼくはルックスで勝ってるから、お相子なんだ、とニッと笑ってあつかましいのにあきれた。それでもひがむよりはいいと安心した。
by ymomen
| 2022-12-07 06:09
| こども
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