2022年 12月 08日
炒り卵 |
義父はIBMに永年勤務していて数年ごとの転勤が続いたので、夫にはこここそがふるさと、というところがない。
それでも高校時代を過ごし、姉の墓があり、弟が家族と住むジョージア州は、彼にとっていちばんふるさとに近い。
アトランタ空港から義弟の家に向かうハイウエイを走ると、あたりは緑が濃く、アジアから侵入した葛が木々をうっそうと覆っている。砂漠同然の景色のなかに住むわたしの目には、白黒テレビからカラーテレビに代るみたい。その鮮やかな高く茂る木々の緑色に毎回初めてのように感激する。
喘息持ちのわたしの気管がすーっと開いて、とたんに呼吸がらくになるようだ。
南部の湿度と温かさにほっとする。
アメリカ全土にあるチェーンのダイナーに、ワッフルハウスがある。
ワッフルが売り物で、どれも小さな構えで入るとカウンターがあり、その周囲にブースがいくつかある。
黄色い看板が目印で、ドライブしていても、マクドナルドを探すほど容易である。
コロラド州にもあるが、ジョージアにいると探さなくても、そこいらじゅうにある。
夫がまだここに住んでいたころ、夜遊びしてさんざん飲んで、ワッフルハウスで空腹を満たして住処に帰るというのがならわしだったそうだ。
ワッフルハウスのおいしさの秘密は、そのグリルを決して洗わないからだと言ったとか言わないとか。
夫はここのチーズ入りスクランブルドエッグズは最高だという。
前回行ったとき、ウエイトレスに、夫がそう言うからわたしも家でここのと同じくらいおいしいのを作りたい、と言ったら、台所からシェフが出てきて、教えてくださった。卵ひとつに対して、アメリカンチーズ1枚の割合でよく混ぜて焼けばいい。うちではアメリカンチーズは常用してないから、シャープチェダーで。細かく削っているのを使う。
作って、ワッフルハウスのに負けないくらい美味しいかと訊く。
美味しい、と応えてくれたけど、夫にむかしむかしに食べたあの味には、どんなに工夫してみても追いつかないとわかっている。
母が作ってくれた炒り卵は、砂糖と少しの醤油入りだった。
砂糖は三温糖。
黄色がくすんで茶けた色だった。
ごはんにのせて食べた。
甘くておいしかった。
甘い、という味覚、即ち美味、というのはあまりにも稚拙なことと笑われてもかまわない。
いくつかの食べ物は、かけがえのない、そのときにしか出会えないときと重なって、永遠に封印されて、決して全く同じには再現できないことになっている。再現しようと試みても、まがいもののでしかない。それでもあきらめないのは、ひとが記憶というものでできているからではないか。
by ymomen
| 2022-12-08 10:33
| 食
|
Trackback
|
Comments(2)
私も子どもの頃、甘くて醤油味、半熟の炒り卵をごはんに乗せて食べるのがごちそうでした。あまり聞いたことがなかったので、momenさんがお書きになっていてビックリ。自分の家だけかと思っていましたが、そんなことはないようですね。
おひさしぶりです。再開されたブログ、楽しく読ませていただいています!
おひさしぶりです。再開されたブログ、楽しく読ませていただいています!
1
> samさん
おひさしぶりです。
お元気ですか。
また読んでくださって、うれしいです。
おいしいですよね。
何もないときは、これだけでいいくらい好きですが、しばらくいただいていません。
こどものころに好きだったもの、母を思うとなおさらかけがいのないものになりました。
おひさしぶりです。
お元気ですか。
また読んでくださって、うれしいです。
おいしいですよね。
何もないときは、これだけでいいくらい好きですが、しばらくいただいていません。
こどものころに好きだったもの、母を思うとなおさらかけがいのないものになりました。


